保護犬を飼うんじゃなかったと後悔するあなたへ。育犬疲れの解消法

田舎でポメラニアンたちと静かに暮らしていても、時折、保護活動に関わる知人や里親になった方から悲痛な相談を受けることがあります。

せっかく「救いたい」という優しい気持ちで里親になったのに、いざ生活が始まってみると「保護犬を飼うんじゃなかった」と毎日泣きながら後悔に苛まれる……。

これは、決してあなたの心が弱いわけではなく、理想と現実のあまりの乖離が生んだ、一種のパニック状態なんです。

また、育犬ノイローゼで食事が喉を通らなくなったり、愛犬が懐かないことに絶望したり、時には噛む、吠えるといった問題行動に翻弄されて「返品」の二文字が頭をよぎることもあるでしょう。

そこで、この記事では、このような出口の見えないトンネルの中にいるあなたに寄り添い、今の苦しみがどこから来ているのかを整理していきますね。

保護犬を飼うんじゃなかったと後悔する心理的な要因

まずは、なぜあれほど望んで迎えたはずなのに、心から「後悔」という言葉が出てきてしまうのか。

その背景にある、あまりにも過酷な現実と心理的なメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

育犬ノイローゼで夜も眠れない毎日の苦しみ

保護犬を迎え入れた直後、多くの飼い主さんを真っ先に襲うのが「圧倒的な睡眠不足」なんです。

保護犬は、環境が激変した恐怖から、夜通しクーンクーンと鳴き続けたり、真夜中に突然パニックを起こして吠えたり。

これは、ポメラニアンのような小型犬でもその声は心に刺さりますが、成犬の保護犬ともなればその音量は相当なものです。

そして、睡眠不足は人間の脳から冷静な判断力を奪い、感情のコントロールを不可能にさせます。

ふとした瞬間に犬に対して怒りを感じてしまったり、逆に自分を責めて涙が止まらなくなったりするのは、あなたが冷酷だからではなく、単に脳が悲鳴を上げているだけなんです。

この状態はまさに「育犬ノイローゼ」であり、深刻な心理的危機と言えます。

特に、真面目で責任感の強い人ほど、「自分が選んだ道だから」と無理をしてしまいがちです。

しかし、人間が倒れてしまっては、救える命も救えません。

そのため、まずは「今の自分は普通の状態ではない」と認めることが、回復への第一歩となります。

犬の夜泣きに対して耳栓を使ったり、一時的にケージを寝室から離したりすることに罪悪感を持つ必要はありません。

まずは、あなたの睡眠を1時間でも多く確保することが、愛犬との関係を修復するための最優先事項なのです。

全く懐かない保護犬への愛情が枯渇する理由

「保護犬はこれまでの苦労を知っているから、里親にはすぐに心を開いて感謝してくれるはず」という美談は、残念ながらすべての犬に当てはまるわけではありません。

むしろ、過去に人間から虐待を受けたり、野犬として人との接触を断たれてきた子にとって、人間は「怖い存在」でしかありません。

差し伸べた手をすり抜け、名前を呼んでも無視され、それどころか目が合っただけで震えながら逃げ出される……。

そんな日々が数週間、数ヶ月と続けば、どんなに慈愛に満ちた人でも「何のためにこんなに頑張っているんだろう」と愛情の蛇口が閉まってしまうのは当然です。

このように、愛情を注いでも反応がない「報われない労働」のような感覚は、飼い主さんの精神を確実に蝕みます。

そして、これは心理学的にも自然な反応で、コミュニケーションが成立しない相手に対して愛情を持ち続けるのは至難の業です。

ただ、今はまだ、お互いに「言葉も文化も違う異星人と同居している」くらいの感覚でいいんです。

無理に「可愛い」と思おうとするのを一度やめて、淡々と食事を与え、安全を守る。

それだけで、里親としての義務は十分に果たせていると自分に言い聞かせてくださいね。愛情は、後からついてくるものです。

破壊行動やトイレの失敗で心が折れそうな時

お気に入りのソファが引き裂かれ、床の柱がボロボロに齧られ、さらには高価なカーペットの上に何度も排泄をされる……。

こうした「環境の破壊」は、飼い主の尊厳や生活の質をダイレクトに攻撃します。

ちなみに、我が家のソファもこのようにボロボロですよ(笑)

特に、田舎の広い家や、大切にメンテナンスしてきた住居が汚されていく様子を見るのは、心が引き裂かれる思いでしょう。

そして、掃除を終えた直後にまた粗相をされる絶望感。これは単なる汚れの問題ではなく、「自分のテリトリーが侵食されている」という本能的なストレスなのです。

保護犬のトイレの失敗は、嫌がらせではなく「不安の表出」であることがほとんどです。

また、ケージを安全地帯だと認識できていない場合、どこで排泄すれば良いか混乱しているだけなのです。

「この子はわざと私を困らせようとしているのではないか」と被害妄想的に捉えてしまうこともありますが、それはあなたが疲れ切っている証拠です。

そのため、まずは破壊されて困るものはすべて徹底的に片付け、物理的に壊せない・汚せない環境（サークルやジョイントマットの活用）を作りましょう。

掃除の手間を極限まで減らす工夫をすることが、あなたの心を守るための防衛策になりますから。

散歩中のパニックや吠えへの対応に限界を感じる

外の世界を知らない保護犬にとって、散歩は恐怖の連続なんです。

通り過ぎる車、子供の叫び声、風に舞うレジ袋、すべてが「自分を倒しに来る敵」に見えています。

そして、パニックを起こしてリードを振り切ろうとする愛犬を必死で抑え、近所の人に「しつけができていない」という目で見られる……。

この孤独な闘いは、飼い主さんを社会から孤立させます。

ちなみに、私自身、ポメラニアンを連れて散歩をしていても、他人の視線が気になってしまうことはあります。

ましてや問題行動を抱える保護犬となれば、その緊張感は計り知れませんよね。

また、散歩が「楽しい時間」ではなく、いつ何が起こるか分からない「恐怖の時間」になってしまうと、家を出ること自体が苦痛になります。

しかし、無理に外に連れ出す必要はありませんよ。家の中で歩く練習をする、庭に出るだけにする、といったスモールステップから始めればいいのです。

世間の「理想の犬との暮らし」に自分を当てはめようとしないでください。散歩に行かない日が数日あっても、その子の命に別状はありませんから。

そのため、まずはあなた自身が「外に出ても大丈夫だ」と思える心の余裕を取り戻すことが先決ですよ。

家族の協力が得られない孤独が後悔を加速させる

「保護犬を飼うんじゃなかった」という後悔を決定的にするのは、意外にも犬そのものではなく「家族の態度」だったりします。

迎える前は「みんなで世話をする」と約束したはずなのに、実際には自分一人だけが早起きして散歩に行き、排泄物の処理をし、吠え声に頭を抱える。

そして、他の家族は可愛い時だけ犬を愛で、大変な場面では「あなたが決めたことでしょ」と突き放す。

この不公平感は、家族への激しい憎悪を生みます。家庭という最も安らぐべき場所が、一番ストレスの溜まる場所になってしまうのです。

また、里親を待っている子たちがまだたくさんいるという社会的なプレッシャーも、あなたを「弱音を吐いてはいけない」と縛り付けます。

ですが、一人で抱え込むことは絶対に避けてください。

これは、家庭崩壊が起きる前に、第三者の介入が必要です。自治体の相談窓口や、信頼できるドッグトレーナーに、現状の苦しみを隠さず打ち明けてください。

あなたが今の辛さを言葉にすることは、無責任なことでも、犬を裏切ることでもありません。自分を守るための、正当な権利なのですから。

保護犬を飼うんじゃなかったという後悔への具体的な対処

今の苦しい状況を打破し、少しでも平穏な日常を取り戻すためには、精神論ではなく「技術的・物理的なアプローチ」が必要です。

そこで、ポメラニアン愛好家の私が見てきた、現実的な解決策を一つずつ紐解いていきましょう。

3-3-3の法則で愛犬の心理プロセスを理解する

保護犬が新しい環境に適応するまでには、魔法のような近道はなく、生物学的な時間が必要です。

そして、これを視覚化したのが「3-3-3の法則」であり、これを知るだけで、「今のパニックは異常ではない」と少しだけ冷静になれるはずです。

期間	犬の心理状態	飼い主に求められる対応
最初の3日間	極度の緊張、混乱、恐怖。ここは「安全かどうか」を探る期間。	無理に触らない。目を合わせない。静かな居場所を確保して見守る。
最初の3週間	環境に慣れ始め、本来の性格や、逆に我慢していた問題行動が出始める。	生活のルーティン（食事・散歩の時間）を固定し、「予測可能な日常」を与える。
最初の3ヶ月	ようやく「ここが自分の家だ」と確信し、飼い主との絆が芽生え始める。	本格的なしつけや、おやつを使った楽しいトレーニングを開始する。

ちなみに、この期間はあくまで目安であり、特に元野犬や虐待経験のある子は、この3倍の時間がかかっても不思議ではありません。

そのため、焦りは禁物です。「今はまだ減圧期だから、この行動も仕方ない」と割り切ることで、あなたの心の負担を少しでも減らしてくださいね。

LIMA原則に基づく無理のないしつけの始め方

しつけが思うようにいかないと、つい「叱る」ことで解決しようとしがちですが、保護犬に体罰や大声は逆効果でしかありません。

そして、世界中の専門家が推奨しているのは、LIMA（Least Intrusive, Minimally Aversive）という考え方であり、これは「最も侵襲性が低く、嫌悪刺激が少ない」方法を選ぶという指針です。

例えば、トイレの失敗に対しては、叱るのではなく「成功しやすい環境（サークルを広げる、シートを敷き詰める）」を整える。

吠えるのに対しては、黙らせるのではなく「なぜ吠えているのか（怖い、空腹、暇）」の原因を探り、それを取り除いてあげる。

このように、「犬の困った行動は、犬なりの助けを求めるサイン」だと捉え直してみてください。

この視点の転換が、あなた自身のストレスを軽減し、愛犬との信頼関係を築く鍵となります。

噛みつきなどの攻撃的な行動は恐怖心の裏返し

もし愛犬があなたに牙を向けるなら、それは「あなたが嫌いだから」ではなく、「とても怖いから」です。

つまり、自分を守るために必死に戦っているだけであり、これを「恐怖に基づく攻撃性」と呼びます。

良かれと思って撫でようとした手が、彼らにとっては「自分を痛めつける捕獲者の手」に見えているのかもしれません。

そして、噛みつき問題は非常に危険です。特にご家族に小さなお子様がいる場合や、深刻な怪我を負う可能性がある場合は、絶対に独力で解決しようとしないでください。

このような深刻なケースでは、経験豊富なドッグトレーナーによる個別指導が必要です。

そのため、無理をして状況を悪化させる前に、専門家の目を入れる勇気を持ってください。

環境を少し変える（ケージの位置を変える、接する時間を制限する）だけで、攻撃性が劇的に収まることもありますよ。

一人で抱え込まず外部の預かりサービスを頼る

「里親になった以上、どんなことがあっても自分が最後まで面倒を見なければならない」という強迫観念。

これが、あなたを一番追い詰めている正体ではありませんか？

ですが、犬と24時間365日向き合い続ける必要はなく、むしろ疲弊しきった状態で接するより、離れる時間を作ったほうが関係は良くなります。

そのため、ペットシッターさんや一時預かりサービス、ドッグホテルを活用して、物理的に犬から離れる日を作ってください。

そして、これは「育犬放棄」ではなく、「飼育を継続するためのメンタルヘルス管理」なんですよ。

田舎の広い土地であっても、一人の空間が必要なのは人間として当然のこと。

そこで、週に一度でも自分の好きな趣味に没頭する時間を持つことで、また犬に対して「今日は少しだけ優しくしてみようかな」という余裕が生まれるのです。

保護犬を飼うんじゃなかったという後悔と向き合う勇気

後悔している自分を「自分勝手だ」「犬を可哀想な目に遭わせている」と責めるのは、もう終わりにしましょう。

後悔するということは、それだけあなたが真剣に、その子の命を背負おうとした証拠なんです。どうでもよければ、後悔すら湧きませんから。

また、「100点の完璧な飼い主」なんて、ポメラニアンを15年飼っている私だってなれません。

散歩が面倒でサボる日もあれば、吠え声にイラっとして無視してしまう日だってありますから。

それでもいいんです。犬にとって一番必要なのは、豪華な食事や完璧な訓練ではなく、「穏やかに笑っている飼い主の存在」です。

まずはハードルを地面まで下げて、今のあなたができる最低限のことだけを淡々とこなす。それで十分合格点なのですから。

よくある質問（FAQ）

保護犬を飼うんじゃなかったと後悔する方が良くする質問についてまとめてみましたので、是非参考にしてくださいね。

Q1：犬を保護団体に返すのは、二度目の遺棄にあたる「無責任な行為」でしょうか？

いいえ、そうとは限りません。人と犬の相性にはどうしても合わない場合があります。飼い主が精神を病み、犬も怯え続けるような環境は、どちらにとっても地獄です。そして、適切な手続きを経て、よりその子に合った環境へ繋ぎ直す決断は、最終的な責任の果たし方と言えます。また、返還後に別の家庭で幸せになった事例も数多くありますよ。

Q2：里親を辞めたい場合、誰に相談し、どのような手続きをすれば良いですか？

まずは、譲渡契約を結んだ保護団体に正直に相談してください。多くの団体では「飼育困難な場合は必ず報告する」という条項があります。そして、感情的にならず、「今の自分にはこれ以上の飼育が困難である」という事実を事務的に、かつ誠実に伝えましょう。冷静な話し合いのために、ドッグトレーナーなどの専門家の意見書を添えるのも有効です。

Q3：譲渡時に支払った費用（譲渡金）は、返還時に戻ってきますか？

一般的に、支払った譲渡金や寄付金は返金されません。それらは、犬がこれまでに受けた医療費や、団体の活動を支えるための費用として扱われるためです。また、犬を団体まで運ぶ搬送費用や事務手数料なども里親側の負担になることが多いため、契約書の内容を事前によく確認しておく必要があります。

まとめ：保護犬を飼うんじゃなかったと後悔した後の決断

ここまで読んでくださったあなたは、本当に一生懸命、愛犬と向き合ってこられたのだと思います。

保護犬を迎え入れるという素晴らしい行動をとった自分を、どうかこれ以上痛めつけないでください。

また、保護犬のポメラニアンと暮らす日々の中で私が学んだのは、犬は人間の不完全さを丸ごと受け入れてくれる、不思議な生き物だということです。

ですが、それには飼い主側の心の安定が不可欠なんです。

もし、これ以上の飼育があなたの人生を破壊し、愛犬にとっても苦痛でしかないのなら、「勇気を持って手を放す」という選択肢も排除しないでください。

正確な情報は各保護団体の公式サイトや、環境省が提供するガイドライン等で確認し、最終的な判断はドッグトレーナーや法的な専門家にご相談くださいね。

あなたがまた、穏やかな朝を迎えられる日が来ることを心から応援しています。
（出典：環境省『動物の愛護と適切な管理』）

※なお、本記事の健康や飼育に関する情報は一般的な目安です。正確な情報は公式サイトをご確認ください。また、健康面での最終的な判断は獣医師などの専門家にご相談ください。